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事業紹介Project

新たな価値を見出す力 PROJECT 03

2018年1月。FITSは新事業発表会を開催し、新ブランドの立ち上げと新たな市場への参入を表明した。ブランドの名称は「FITS SPORTS(フィッツスポーツ)」。香りが嗅覚を通じて本能を刺激し、パフォーマンスを変えていく。「勝てるメンタルへ、香りが導く」――それは「香りに機能性を付加する」という、ほかに類を見ない商品であった。

すべては社員の“妄想”からスタートした。

この革新的なプロジェクトが発足したのは、今から4年前。きっかけは、一人の社員の“妄想”だった。FITSでは、仕事の合間やランチタイムの雑談の中で、「こんな商品できないかな?」という議論に発展することがよくある。「香りに機能性を持たせる」というアイデアも、そんな日常から生まれた。

ヒントとなったのは、ある受験勉強のテクニック。勉強する際に必ず、香り付き消しゴムを嗅ぐことで、それを記憶する。テストで忘れた時に同じ香りを嗅ぐことで、暗記したこと(成功体験)を思い出すというもの。これは「プルースト現象」という学術的な研究もなされている香りと脳の作用を応用したもので、この現象を自社製品に機能性として付加できないかと考えたのだ。

そこで、思い浮かんだ活用分野が「スポーツ」。香りによって練習中の成功体験を思い出し、それを試合で発揮する。それが実現し、世界のスポーツシーンに広がれば、フレグランス市場の革命となるだろう。世界初の「香りアイテム」をこの手でつくりたい。そうした想いから、4年に及ぶ開発プロジェクトがスタートしたのである。

成功のカギは、香りの効果を検証すること。

アイデアを出した社員は宣伝販促担当で、商品企画についてはまったくの素人だったのだが、チームを統括するリーダーを任されることが決定した。それこそが、人の想いを何より大切にするFITSらしさ。マーケティング、商品企画、営業などの専門各部署もその想いに共感し、プロジェクトへの参加を申し出るメンバーが後を絶たなかった。

開発のキーポイントは、香りの効能を検証すること。そこでプロジェクトメンバーたちは、香りと脳、スポーツに関する研究を行う学術機関や専門家をリストアップ。杏林大学精神神経科の古賀名誉教授による製品監修・協同開発が決まった。教授が示した方向性は、「香りには嗜好性があるため、まずはリラックス効果・集中力を高めるといわれる香りをもとに、万人に好まれるものをつくり出し、そのうえで学術的な検証を進めていく」というもの。試作した香りの数は、数十種類以上。そこから、実際にパフォーマンスの成果を試すスポーツテストや血流量の測定実験など、気が遠くなるほどの地道な検証が続いた。そうした中、古賀教授から朗報が届く。提示された香りのうち、特に2種類から3つの効果が見られたというのである。「意欲の向上」「体の柔軟性向上」、そして「前頭葉の機能活性化」。前例のないプロジェクトに光が差し始めた瞬間だった。

剥がれやすい。シンプルだからこそ、解決は困難だった。

香りの開発にめどが立ち始めた頃、同時進行で剤形の検討も進められていた。ネックレスやリストバンドなど、さまざまな案が出されたものの、競技によってはルールで装着できない場合があることから、剤形は「セントテーピング(香り付き鼻腔拡張テープ)」に落ち着いた。だが、そこで重大な問題が発生する。「汗でテープが剥がれやすい」というシンプルで、解決困難な壁にぶつかったのだ。香料は、人によって長時間肌に直接付着すると炎症の原因になりかねない。そこで、肌との間に香料を浸透させない、通気性のない素材を用いる必要があったのだが、通気性がなければ、必然的に汗の水分が残る。すると、テープが剥がれやすくなってしまうわけだ。さらに、鼻の形や大きさは人によって違うため、形状によっては装着時に違和感が生じることもある。大幅な形状・構造の変更ができれば、問題の解決も容易だったが、一方で、違和感を感じてしまうデメリットもあった。プロジェクトは、ここで暗礁に乗り上げることになる。

地道に、泥臭く。トライ&エラーで道を切り拓く。

この最大の問題を解決へと導いたのは、革新的なアイデアでも高度な知見でもなく、地道で泥臭い、検証作業の積み重ねだった。社内では、有志によるランニングチームが発足。自分たちで試作品を着けて会社の周りを走り、検証しようということになった。新たな形状や素材を試しつつ、走る。また剥がれる。それを何度も繰り返した。デザイン担当・商品企画担当が数ミリ単位で長さを調整し、形を検討する。素材の組み合わせも約100パターン近く考案された。

自分たちの手で新たな価値をつくり出したい、誇れる商品にしたい。メンバーたちの想いは一つだった。それが結実したのは、開発から3年が経とうとしていた時のこと。「剥がれない」。こんなに小さなことに、メンバーの誰もが喜び、感動した。開発の総仕上げに実施したのは、プロジェクトメンバー全員による、マラソン大会出場。みんなで開発した製品を着けて、全員で完走し、その効果を実感し、喜びを分かち合う……。FITSのモノづくりが持つ醍醐味や魅力を体感できた瞬間だった。

まだゴールではない。ここからが、本当のチャレンジだ。

彼らの懸命な挑戦によって、FITSは新たな武器を手にすることができた。香りの効果検証における信憑性を担保し、特許も申請した。申請が完了したのは、記者発表の1週間前というから、開発までにどれだけの苦労を重ね、そこから急ピッチでビジネス化に漕ぎつけたかがわかる。
現在、「FITS SPORTS」のセントテーピングは、大手スポーツ用品店をはじめ、バラエティショップの健康雑貨コーナーなど多くの店舗に採用されている。そして、新規開拓を行う営業担当らの懸命の努力によって、香りという新たなスポーツウェアは、多くの人々の目に触れる機会を増やしていくだろう。
スポーツ分野において素人であったFITSがここまでのムーブメントを生み出せた理由。それは、メンバー全員の諦めない熱意があったからだ。多くの人を巻き込み、今までにない価値をつくる。それは、やがて「文化」へと昇華していくことだろう。しかし、まだ商品が多くの人に受け入れられたわけでも、ビジネスが成功したわけでもない。ここからが、本当のスタートだ。FITSの挑戦は続いていく。